生成AIにおける法制定の課題~文化庁における生成AIと著作権に関する見解②~

文化庁の見解を独自解説


生成AIが大きな話題となる中で、常に懸念として挙げられるのが著作権の問題です。特に、イラストや文章を作成・公開しているクリエイターにとって、自らの作品が無断で学習として使われた場合に著作権違反になり得るのか、そもそも生成AIで生成したものに著作権は認められるのか等、まだ明快な法整備が為されていないというのが実状です。

著作権法を管轄する文化庁は2023年6月に「生成AIと著作権」セミナーを開催し、文化庁として、現行の法律における見解及び今後議論すべき論点等を述べた資料を公開しました。その資料は、こちらの文化庁ホームページより閲覧できます。

その後も議論を重ねており、2023年12月20日には文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)が開催され、より各論点の法的解釈に踏み込んだ内容の資料が公開されました。

本記事では、公開された評議会資料の要旨と、これらの資料から予測される著作権と生成AIの文化庁における見解についてまとめたものです。

※以下は資料を基に独自に解説したものであり、文化庁の公式見解であると保証するものではありません。

①本発表における主な争点


  • 2023年11月に発表された第4回の内容を前提としており、著作権法への理解、特に第30条の4の最低限の理解が求められます。※第4回の要旨をまとめた記事はこちらです。

    - 著作権法 第30条の4: 特定の条件を満たす場合について、著作権者の許諾なく著作物を利用することを認める規定。日本におけるAI推進の鍵となる重要な根拠法。
  • 全体の議論としては、第4回で提示された論点をより掘り下げていく内容となっています。特に、「享受目的が認められる場合」としてどのようなケースが著作権侵害に該当しうるかを詳細に掘り下げています。
  • 各論点をそれぞれ以下の段階に分け、その中で「侵害に対する措置について」等の小見出しで各議論を整理しています。
    • AIの開発段階での著作権侵害
    • 作成したAIの利用段階での著作権侵害
    • 生成物の著作物性について
    • その他の論点について

【参考資料】
文化庁 生成AIに関するクリエイターや著作権者等の主な御意見 2023 年 11 月

AIの学習・開発段階での著作権侵害リスク


2-1. 違反と見做される条件とは?

  • 情報解析・学習に用いられるものは非享受目的として取り扱われますが、学習方法や意図によっては「非享受目的と享受目的が併存している」と推認され違反となります。
    • 例:ファインチューニングのうち、意図的に学習データをそのまま出力させるような調整が行われているもの
    • 例:既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
  • 具体的事案における判断は、「享受目的が推認できるかどうか」=「著作物を複製する意図が存在するか」が重要な観点となります。
    • 例えば、多数の生成物の中に著作物と類似したものが少数あると言った場合は推認されませんが、それが「頻発する」場合享受目的があるとして推認されます。
  • 検索拡張生成(通称: RAG)に関しては、性質上著作物の一部を出力するため、非享受目的とは捉えられず別途法第47 条の5第1項第1号又は第2号が適用されます。
    • この時、第47 条の5第1項第1号は当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められます。
    • RAGのために行うデータベースの作成における複製は同条第2項に定める準備行為として認められるため、著作権に抵触する恐れがあります

2-2. 著作権者の利益を不当に害する場合はどうなる?

  • 法第30条の4では、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と規定されています。
  • 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはなりません。
  • 情報解析等に用いるために整理されたデータベースに関しては、「有償のものを複製し、無償で使用する」等の行為は利益を不当に害するとして違反となります。
    • ただし、「Web上に公開された海賊版等の違法データを意図せず学習に用いられてしまった」等のケースは、データの収集者に判断を求めるのが難しいため学習に用いられていても責任は発生しません
  • 学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について、将来的な販売などを予定しているものの複製等は第30条の4項適用外と考えられますが、これらの技術的な措置が法的な「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するかは議論が必要です。

2-3. AIを使って著作権侵害をしてしまうと?

  • 享受目的であると判断された場合には、著作権侵害として認められ損害賠償や侵害行為の差止請求等が行われます。
  • 学習段階で侵害行為が認められた場合には、将来的な著作権侵害の可能性が高いと言える場合にそれらのデータをデータセットから除去することを求めることが出来ると考えられます。
  • ただし、学習モデルが著作物の複製を目的としていない限りは学習済みモデル自体の削除要請は認められない可能性が高いです。

2-4. 権利保持者が使用を拒否すれば良いの?

  • 権利保持者がAI学習への使用を拒絶しているだけでは、機械学習に利用されても著作権侵害と捉えられる可能性は低いです。
    • ただし、前述の通り著作者の利益を害している場合はその限りではありません。

作成したAIの利用段階での著作権侵害リスク


3-1. 著作権侵害の有無とは?

  • 「類似性」「依拠性」の両者が認められると著作権侵害と見なされます。
  • 類似性: 生成物そのものが似ているかどうか。生成AIの使用不使用に関わらず、人の手によって創作されたものと同様に判断されます。
  • 依拠性に関しては、従来は、制作者が既存の著作物に接する機会があったか(認識していたか)等で推認されてきました。
    • 生成AI利用時も、制作者が既存の著作物を認識していた場合は依拠性が推認できると考えられています。
    • 制作者が著作物を認識してなくても、AIの開発段階で当該著作物を学習していた場合は、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められ著作権侵害となる可能性があります。
  • 生成AIの開発段階で既存の著作物を学習していた場合、利用者だけでなく該当AIモデルを開発した事業者においても著作権侵害の責任が発生することが考えられます。

3-2. 侵害に対する措置はどうなる?

  • 故意又は過失の有無により受け得る措置は異なりますが、有無に関わらず著作権を侵害していると思われるコンテンツの差止請求は可能であると考えられます。
  • AIの利用者が元となる著作物を認識していなかった場合、故意又は過失は認められず措置として差止請求に留まると考えられます。
    • ただし、不当利得返還請求として使用料等が認められることは考えられます。
  • 差止請求が及びうる範囲として以下が考えられます。
    • 侵害に該当する生成物の公開停止
    • 予防措置として、データセットから当該データの削除
    • 生成AIの開発事業者に、予防に必要な措置の請求

3-3. 侵害行為の責任主体は利用者 or 開発者?

  • 責任主体として、AIの利用者が主体となる場合と、開発やサービス提供を行う事業者が主体となる場合が考えられます。
  • 生成AIの開発・提供に際して、侵害物が高頻度で生成されたり、侵害の可能性を認識しているにも関わらず技術的な抑制手段を用いていない場合は開発事業者が責任主体となる可能性が高まります。

④生成物の著作物性について


  • 著作権法上の従来の解釈と同様に考えられ、個別の事例に応じて創作的寄与があると言えるかどうかが判断されます。
  • 著作物性を判断するにあたり考慮される要素として、プロンプト等の分量・内容、生成後の加筆・修正等があります。
  • 生成の試行回数や複数の生成物からの選択等は創作的寄与には影響しませんが、上記プロンプト等との組み合わせによっては影響があると考えられる場合もあります。
  • なお、著作性がなくとも、その複製や利用が営業上の利益を侵害する場合は民法上の不法行為として損害賠償請求が認められる可能性があります。

⑤まとめ


  • 著作権法の適用は開発段階/利用段階や各個別の事例によって適用範囲が異なることに十分留意する必要があります。
  • 第4回同様、生成AIに関するクリエイターの意見は賛否両論となっており、明確な着地点は見つかっていません。
  • 基本は従来の著作権法に係る判例と同じように扱われますが、AI(機械学習)に使用される場合、著作物の扱いや責任主体等が各段階・事例によって多様な可能性が考えられます。
  • 開発事業者やAIサービスを展開する事業者は、著作権を侵害する作品が生成されないように技術的な対策を講じることが求められます。
  • 生成物への著作権付与に関しては、まだ明確には定められていませんが従来の解釈に則り、個別に判断される可能性が高いです。

⑥最後に


今回の審議会では、今まで挙げられていた論点を詳細な例まで掘り下げることで、生成AIを取り巻く著作権の問題がさらに明確になりました。

学習段階での著作権侵害の適用範囲や解釈等を見るに、生成AIの開発者、提供事業者は有利に見える一方で、反対の意志を示すクリエイター等の権利保持者にとっては不利な内容となっているように感じられます。

今後どのような変更が行われていくかは分かりませんが、双方に利益のある着地点が見つかることを望んでいます。

次回1月中旬に行われる予定である討議に関しても、同様にまとめる予定です。